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「ゲーム脳」徹底検証
トンデモ『ゲーム脳の恐怖』(1)
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『ゲーム脳の恐怖』(森昭雄/NHK出版)について、2ちゃんねるなどいくつかのサイトで、「これはトンデモ本だ」という意見がみられる。
“トンデモ”という言葉を世に広めた「と学会」の定義によると、“トンデモ本”というのは、「著者が意図したものとは異なる視点から楽しめるもの」、具体的に言うと、「著者の大ボケや、無知、カン違い、妄想などにより、常識とはかけ離れたおかしな内容になってしまった本」のこと。
『ゲーム脳の恐怖』は、果たして「トンデモ本」といえるほど、おかしな内容なのだろうか? またそうだとしても、果たして楽しめるほどのものなのだろうか?
そこのところを尋ねてみたくて、私は一路大阪へ。トンデモ本研究の本家「と学会」の会長で、SF作家の山本弘さんにお話をうかがった。
山本氏の指摘は、かねてから私が思っていたものと共通する部分が多く、インタビュー中に私のほうが舞い上がってしまったところも多々あるのだが、全体の雰囲気を再現しようと思い、私の発言もできるだけそのまま載せている。
<取材・文 府元晶(ゲイムマン)>(2002.11)
山本弘氏
SF作家。代表作『ラプラスの魔』『時の果てのフェブラリー』『サイバーナイト』『ギャラクシー・トリッパー美葉』(角川スニーカー文庫)『パラケルススの魔剣』(ログアウト文庫/角川スニーカー文庫で復刻)など。と学会会長としての著書に、『トンデモノストラダムス本の世界』(洋泉社/宝島社文庫)『トンデモ大予言の後始末』『山本弘のハマリもの』(洋泉社)『こんなにヘンだぞ!「空想科学読本」』(太田出版)、対談集『メバエ』(音楽専科社)など。
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と学会会長、『ゲーム脳の恐怖』をトンデモ本に認定
――『ゲーム脳の恐怖』について、2ちゃんねるなどで「これはトンデモ本だ」という書き込みがあったのを目にしたのですが、やっぱりこの本は、トンデモに近い感じなんでしょうか?
山本 いやもう、はっきり「トンデモ本」と言い切っていいんじゃないですか? 論理が根本的に崩壊していますからね。ぱっと見、根拠があるように見えるんだけど、よく読んでくと、すごくおかしいんですよね。
ゲームやってる間の脳波が、痴呆者の脳波によく似てるということなんだけども、アルファ波が増えてベータ波が減る状態というのは、別にそういう人じゃなくても、普通の人間がリラックスしてもそうなるんですよ。
現にこの63ページに、「痴呆の人の聞き取り中と健常な人がボーッとしているときの脳波が似ていることがわかります」ってあるでしょ。要するに安静にしてれば誰でもそうなっちゃうんですよ。
だから、“ゲームしている時の脳波が、痴呆者の脳波に似ている”と言うとショッキングに聞こえるけども、単に“安静にしているときの脳波に似てる”と言えば、逆にいいことなんじゃないかって思ったんですよね。
――よく「アルファ波はリラックスしてるときに出る」って言われますよね。
山本 この人の考えかたは、「アルファ波が増える状態が良くない」ということなんだけど、それを言ったらリラックスしてるだけで駄目ってことになっちゃいますよ。寝ることさえできないんですよ(笑)。
と学会
トンデモ本を研究して、そのおもしろさを世間に広めることを目的として、1992年に結成された。メンバーは山本氏のほかに、唐沢俊一氏、志水一夫氏、皆神龍太郎氏、眠田直氏、藤倉珊氏、植木不等式氏、岡田斗司夫氏など約100名。SFファンの集まる「日本SF大会」の中で毎年、「日本トンデモ本大賞」を主催している。『トンデモ本の世界』『トンデモ本の逆襲』『トンデモ超常現象99の真相』(洋泉社/宝島社文庫)『トンデモ本の世界R』(太田出版)など、ベストセラー多数。
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テレビゲームと運動の比較
山本 124ページに、運動したときの脳波が載ってますよね。運動すると、ベータ/アルファの値が減って、運動をやめると元に戻る。だから運動はいいんだ、ということが書かれてます。でもよく見たら、24ページの、ゲームやってるときの脳波と、一緒なんですよ。
――あ、本当ですね(笑)。
山本 運動やってるときは、後から増えるからいいんだって言ってるんだけど、ゲームやっててもやっぱし後から増えるんですよ。
――確かに増えてますね。
山本 じゃあゲームやってるのと運動やってるのと、どういう違いがあるんだろう。
――(笑)
山本 どう違うのか、いくら読んでもわからないんだけど。おんなじデータが出てるのに、違う結果を導くっていうのがね。

山本 コンピュータのプログラムやってる人の脳波を調べたら、やっぱりベータ/アルファ値が低いから、こいつらは何も考えてないって、ひどいことを言ってますよね(笑)。
――これひどいですよね。
山本 ひどいですよこれ。そんなわけないだろ! っていう。
――私が気になったのは、詳しくは書かれてないので、わざとぼかしてるのかもしれないですけど(※注1)、もしそういう人が作ったのがこの脳波計だったとしたら……
山本 信用できないなっていう。
――そこは信用できないし、それを信用するんだとしたら、その状態はおかしくないだろ、と。
注1:『ゲーム批評』11月号のインタビューには、「脳波計のためにソフト開発してる8人」とあった。
森氏はゲームを知らなさすぎる
山本 あと問題は、この人がゲームのことを全然知らないということ。
――知らないですよね。
山本 「まえがき」からしておもしろい。ゲームショウに行ったら、「左右に立派な白い羽をつけたエンジェルの格好をして、真面目な顔で歩いているのです。(中略)ショックを受けました」ってそりゃコスプレだ!
――まあ、初めて見た人はショック受けるかもしれないですけど。
山本 ショック受けるかもしれないけど、そういうものがあるってことを知らないっていうのがね。
あと、ロールプレイングゲームの説明で(104ページ)、「自分が敵にみつかって殺されないように敵陣に進入し、相手を威嚇しながら画面上で突き進んでいくというゲーム」って……、
二人 ロールプレイングゲームじゃないですよね!
山本 アドベンチャーじゃないの?
――そうですよね、威嚇しながら進むロールプレイングゲームって何だろう? って考えてみたんですけど、どうも『メタルギア』か『バイオハザード』か……。
山本 でもどっちもロールプレイングゲームじゃない。
――多分、“ロールプレイングゲーム”を字句どおりに解釈して、
山本 ああ、役割を演じてるから?
――生物の主人公がいる場合はみんな“ロールプレイングゲーム”だと思ってるんじゃないか。多分、「携帯型の積み木合わせゲーム」〜『テトリス』なんかと比較してるんじゃないかと。
山本 なるほどね。
知らないからこそ出る結論
――だから逆に言うと、本当のロールプレイングゲームのような、非リアルタイムのゲームのことは、もしかしたら存在自体知らないんじゃないかなという気が。
山本 101ページに書いてあるんだけども、読書とゲームを比較して、読書は読んでる内容について考えるけど、「ゲームはテンポが速く、思考の入るすきまがありません。要素もありません」って断言してるんですよ。
――ありましたね。
山本 ゲームはすべてテンポが速いわけじゃなくて、シューティングとかアクションゲームとかアクションパズルとかは確かにそうだけど、ロールプレイングゲームとかシミュレーションとかもあるのに、こういうゲームの存在を知らないんじゃないか。
――だいたい日本のゲームだと、むしろ非リアルタイム系のほうが多いような気が。ゲームと読書を比較して書いてますけど、じゃ、『かまいたちの夜』はどうなんでしょう?
山本 (笑)確かにそうだ。なのに「思考の入るすきまがありません。要素もありません」って断言しちゃうのが。
――すごいですよね。
山本 あとこれもすごい。19ページの、「某大学生は、このテレビゲームを三〇時間(約二日)で一気に完了させたらしいのですが、たいへんな疲労感をもったと言っていました」って、そりゃ疲れるよ30時間は! ゲームじゃなくても30時間は疲れるよ。
――本読んでも30時間はツラい。
山本 体に良くない、30時間は。スポーツだって良くないですね。
データと主観がごちゃ混ぜ
山本 で、いちばん問題なのが、脳波の測定をしたことから導かれる結論と、著者の主観とがごちゃ混ぜになってることですよ。どこまでが主観なのかわからない。
26、27ページに「睡眠不足の子どもたち」というのがあるんですけど、要するに最近NHKの調査によれば、小学生の睡眠時間がこの25年間で30分近く減ってると。
そこまでは本当なんだとしても、その後に「塾から帰ってきてからテレビゲームをするので、寝るのが遅くなるのも当然です」と、いきなりデータにないことを言っちゃうわけですよね。
さらに、「もしもテレビゲーム中毒になってしまうと、朝の三時ぐらいまですることにもなりかねません」と、想像でものを言っちゃいます。、それはゲームじゃなくて、朝の三時までゲームをやらせる親のほうに問題があるんじゃないかな(笑)。
そりゃ確かに、ゲームを1日何時間もやらせるのは良くない。良くないけどそれは親に言うべきであって、ゲームのせいにしないでほしい。ゲームが原因じゃなくて、親が原因で非行に走るというのはあり得ると思う。
ゲームを1日1時間だけきっちりやってる子とか、あるいはゲームを全然やらない子っていうのは、絶対親のしつけが厳しいはずだから。親のしつけが厳しいのと、放任主義の子供とでは、そりゃ育ちかたが絶対違いますよ。ゲームをやってる時間だけ見ても、正しい結果は得られない。
そういう問題を考えずに、いきなりこの結論を出すのがちょっとね。
――もうひとつ気になったのは、この4章のところで、「ベータ波を上昇させるゲームもあった」と。でも、森氏が言うところの“ロールプレイングゲーム”で、ベータ波は上昇するんだけど、それはストレスだから良くないと。それまでさんざん、「ベータ波が下降するのが良くない」と言ってたのに、ここで突然正反対のことを言ってるんですよ。
山本 この章で、ストレスを説明してるじゃないですか。スポーツってストレスたまらないんですか?
――(笑)
山本 野球とかやってても、追い詰められたら、選手ってストレスたまるでしょ?
――昨日の石井貴投手みたいに(※取材日の前日、日本シリーズで5連打を浴びて負け投手に)。
山本 あれ相当なストレスになるよ。そういうのは違うんですか? っていう気になるよ。だってゲームは疑似体験だけども、スポーツは実際にやってるんだから、そっちのほうがストレスたまるじゃない、普通。
脳の問題じゃないだろう
山本 『ゲーム批評』の66ページに書いてあるんですけど、「今、映画監督と一緒にアニメでの研究もやってますよ。昭和初期のモノクロのもので」。昭和初期のモノクロのアニメって、『くもとちゅうりっぷ』とか、『桃太郎 海の神兵』とかなんでしょうか?
――そういえばそうですよね、モノクロでも昭和初期だとかなり限られますよね。
山本 で、「ボクたちも昭和30年代に手をはたいて映画館で感動した記憶があります」って書いてあるんで、昭和30年代に子供っていうことは、何歳ぐらいなんだろうなとちょっと疑問に思って、この人の生まれた年を調べようとしたんだけど、プロフィールにも書いてないし、どうしてもわからないんです。
昭和30年代に劇場でやってたアニメというと、東映の『西遊記』とか『安寿と厨子王丸』だとかあのあたりの作品だと思うんだけど、……どっちもカラーだしなぁ。
――30年代はもうカラーになってましたか。
山本 なってましたね。
“自分が理解できないものは異常だと思っちゃう心理”ってありますよね。多分この人も子供の頃は、チャンバラごっことかをやったと思うんですよ。この世代はチャンバラか西部劇ですから。でもよく考えたら、チャンバラって殺し合いじゃないですか。
例えば今テレビの時代劇なんかで、人をバッタバッタ斬り倒してるけど、あれだけ人を殺しても、誰も「残酷だ」と言わないじゃないですか。みんなが慣れてしまっているから、そう思わないだけで。
――時代劇は私も前からそう感じてました。
山本 25ページで「前頭前野の機能低下と思われる身近な例も挙げてみましょう。たとえば、人目を気にせず電車内で化粧をしている人、公衆の面前で抱き合っているカップルなど」って言っているんですよね。
でも、アメリカ人は昔から、人前でキスしたりするじゃないですか。
――あ、そうか。
山本 アマゾンとか行ったら、裸で歩いてる人も多いんですよ。羞恥心というのは、文化の問題なんですよ、脳の問題じゃなくて。公衆の面前で抱き合っているカップルが増えたというのは、文化が変わってきていて、恥ずかしいという状態がなくなっているということなんだけども、この人はいきなり脳の問題だと言い切っているわけですよ。
――そういう理屈だったら、アメリカ人は昔から前頭葉が働いてないということに……。
山本 なっちゃいますよね(笑)。
そういう文化の問題を、「脳の問題なので」って断言しちゃってる。しかも、何で脳の問題だって言い切れるのかが書かれていない。
(次ページへ続く)
と学会会長、『ゲーム脳の恐怖』をトンデモ本に認定/テレビゲームと運動の比較
森氏はゲームを知らなさすぎる/知らないからこそ出る結論
データと主観がごちゃ混ぜ/脳の問題じゃないだろう
江戸時代のたった2例から理論を展開/テレビゲームに慣れる感覚
プログラマーはものを考えてないって?/何十万人にひとりのケース
何でこんなに売れているのか/徹底的にやり合ったほうがいい
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