「ゲーム脳」徹底検証
斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖2

そもそもいったい何を測りたかったのか?

斎藤 双極誘導をとる場合、その前に単極誘導をまずとるのが普通なんです。
単極誘導の脳波を最初にとっておいて、異常が見つかりそうな部位の脳波の、どこに異常があるかをさらに立体的に調べるときに、双極誘導をいくつかやって、異常な部位を網にかけるわけですね。
今はCTがあるから、あまりこれは重要じゃないんだけれども、でも昔はそれくらいしか、脳のどこに異常があるかを調べる方法がなかったんで、双極誘導はいまだにちゃんととりますけれども、どちらかというとこれは、補足的な意味合いの高い誘導方式で、もう主流じゃないわけですよ。

で、そうかと思うと今度は「不関電極」があるって言う。これもおかしいんですよ。「不関電極」っていうのは今言った、単極誘導の「電位変動がない所」です。
電位変動がない所に一方の極を置き、これを基準として、電位変動がある所にもう一方を置いて、二点間の電位差変動を調べるっていうのが単極誘導ですね。だから不関電極があるってことは、基本的に単極誘導になっちゃうんですよ。双極誘導には不関電極は要らないんです。だから、変な話なんですよ、非常に。


――となると森氏は、いったい何を測っていたんでしょうね。

斎藤 よくわけがわからないんです、このかたの言ってることは。ご本人自身も何だかよくわかってないんじゃないでしょうか。
電極ひとつとったって、測定部位の電極には「電極糊をつける必要がありません」、不関電極には「電極糊を使って装着します」と書いてあって、これもさっぱりわけがわからないんです。こんな区別をする意味は全然ないです。


「不関電極」をおでこにつけるのも間違い

斎藤 さらに言うと、この「不関電極」っていうのは、脳波を拾っちゃいけないんですよ。基準となる点なので、電気的な活動があっちゃいけないんですから。でも、おでこにつけてる。おでこに電極載せたら前頭部の活動を拾っちゃうに決まってるわけで。

――それで「普通は耳たぶを使う」と。

斎藤 耳たぶっていうのは、電位活動がいちばんない所。ゼロではないですよ。でも、頭皮だったら拾っちゃうけど、耳たぶだったら拾いにくいってことがあるから、普通は耳たぶでとるわけですよ。
それなのに、わざわざおでこにつけるってのは、到底解せないことです。
「不関」というのはちょっと訳語として不適切で、「基準」とか「参照」といったほうがいい。そういう重要な電極を、なぜ電気的活動が盛んなおでこにわざわざ乗っけるのかという。謎ですね。ご本人の説明を聞きたいくらいですよ。何でおでこが「不関」なのか? とにかくこの人が、いかに脳波の原理すらわかってないかということが、如実に出ている部分です。

僕の推定では、不関電極は本当に不関電極のつもりなんでしょう。不関電極があって、単極誘導で測定しているというのが、多分正しいんじゃないかと。だから双極誘導だという、この説明が誤解なんだと思いますけどもね。
不関電極を、耳たぶにつけられるのに、わざわざ額につけるのはおかしいですね。ま、脳波計自体がトンデモだということが、これではっきりしてると思いますけどもね。

――57ページの写真を見ると、額の所に3か所貼ってるように見えますよね。

斎藤 そうですよね、簡便ではありますよね。耳たぶを使うと、ややこしくなっちゃいますから。まあ、それ以上のメリットはないですけどね。
このかたは、研究室まで学生連れてきて、脳波とってますよね。外に出張して、学生の部屋とかいろんな所でとってるんじゃなくて。それだったら、ちゃんと脳波室でとりゃあいいじゃないですか、10−20法で、ちゃんと30分かけてね。
おそらくこのかたは、日大医学部の協力を得られなかったんだと思います。でなきゃ、この脳波計を売りたいがために、わざわざ、まともな方法で脳波をとらなかったか。どっちかですね。


脳波を測るならちゃんとした脳波計で

斎藤 「ベータ波が弱いと痴呆」っていうのもこれはもう、トンデモさんの発想でありまして、確かに高齢化すると、脳波全体がゆっくりになる傾向はあります。ただ、それは痴呆に限らず、高齢者はそういう傾向が全般的に出てくる。

――痴呆とは関係がないと。

斎藤 直接関係はありません。ただ、痴呆化してくるとそれこそ、デルタ波やシータ波が出てくることもあるわけです。ところがこの人は、専門じゃないと思ったのか何かわかりませんけれども、そっちは一切考えてないですね。
むしろ、フォーカスすべきはそっちのほうなんですよ。そういう、本物の徐波がどれだけ出るかっていうほうに焦点を当てるべきです。
でもさすがにそれだと、健常者からは徐波化の傾向はとりにくいから、ベータ波、アルファ波という、健常者でも出てき得る脳波に限定したと思います。明らかにこれは、事前に、研究しやすく自分でバイアスをかけちゃってるんですよ。
そんなものは正しい研究とは言えないですね。

とにかくこの脳波計は、どこからどう考えてもインチキです。こんなインチキな物を売られちゃ困るし、何か権威があるように誤解されても困る。脳波を測りたかったら、既にあるソフトとハードを買ったほうが安いですよっていうことは、ぜひ書いていただきたいですね。

――やっぱり、水分計を作ってる会社が脳波計作ってるから。

斎藤 あ、そうなんだ。そういうことですね、確かにね。こんな大層な機械いらないですよ。高級そうなこと書いてありますけど、非常に素朴な回路ですよ、この回路は。

――何で90万円もするんでしょうね?

斎藤 90万っていうのは明らかに、医療機器の値段ですよ。もちろんこの機械は、医療機器として認可されてませんけれどもね。どっちかというと学研の『電子ブロック』で組み立てたほうが早いんじゃないかという。

――(笑)


正しい脳波の測りかた

斎藤 脳波の測定は、シールドされているほうが良くはありますけれども、されてなくても大して影響はないというのは、経験的に明らかです。そうそうノイズが、そこらじゅうに満ち満ちているわけじゃないですからね。
この人の「簡易型脳波計を使えば、とくにシールドされていない部屋での脳波測定も可能」っていうのもおかしいですよ。シールドが必要っていうのは要するに、ノイズを拾うからなんですけど、それは簡易であろうが正規であろうが関係ないですよ。簡易だってノイズは拾うんですから。

あとはまあ、正規の脳波誘導では、並行して心電図もとりますね。脳波計が心臓のノイズを拾っちゃうからです。その影響を調べるためにやるんで、本当は、ちゃんと「ノイズを排除しました」って言うためには、それくらいきっちりやらないといけないんですよ。

それともう1つ、致命的なことを言うと、「筋電図」っていうのがあるんですよ。頭皮などの筋肉が、やはり電気的なパルスを発生してるわけなんですが、これはベータ波に似た波を出すんです。それを簡易脳波計が間違えて拾ってしまう可能性もある。
筋電図ってのは波形を見ればわかるんですよ。だけどこのマシンだと、単純に、比率しか調べてないから、筋電図かどうかはわかりようがないんですよね。

だから、とにかく、ちゃんとした脳波の図も、記録できるようにしてほしいんですよ。そうしないとね、アーチファクト、つまり人工的なノイズを拾ったのか、あるいはちゃんとした脳波なのかという区別ができないんですよ。いまだにそれは目で見なきゃわからない世界ですから。
アーチファクトか否かっていうことをちゃんと調べるには、正規の脳波の記録と、このマシンとの相関性を、まず検証した上でやるのが手順ですね。アーチファクトの区別ができてないというのも大いに問題です。
だってゲームやってるときなんかもう、筋電図出まくりですよ。頭だって揺れてるわけだし、アーチファクトだらけですよ、それこそ。ちゃんと採るんだったら、頭をがっちり固定して、手だけ動かしているようにしないと、本当は良くないわけなんですけれどもね。

(次ページへ続く)

『ゲーム脳の恐怖』は間違いだらけ/「脳波」に関する初歩的な間違い
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